ここのところ、僕の周りで、立て続けに、奇異なる現象が起きる。これも、日頃、観察力を研ぎすまし、森羅万象の声に耳を傾けているからかもしれない。
今日も公園を散歩していたら、ソメイヨシノの古木の辺りで、突然、足が止まった。まるで金縛りに遭ったように、全身が硬直してしまったのだ。
そして、見た!
苔むした幹の表面が、もこもこと膨らんでくるのを!
僕は、言葉を失った。
なにか、超自然的な力が働いている。
自分はその、生成の現場に、今、いるのである。
苔の膨らみは、幹から首を出し、胴体を出し、絵の具のチューブを絞り出すように、みどり色の筒状の物が出てきた。
その物は、ヘビのように体をくねらし、徐々に変形していった。
手が出て足が出て、なにやら小人のような物になったのである。
そして、その小人は、僕に話しかけてきた
「お前は?」
言葉を使ってではない。
直接脳の中に、言葉が浮かんできたのだ。
「は、はあ。あのmogurinともうします。はあ、しがない貧乏絵描きです」
「そうか、わしは、苔仙人じゃ。もう五千年も生きておる」
僕はその五千年という言葉に、畏れを抱き、へへーーと、思わずひれ伏した。
「そんな、偉い、お方が、私ごときに、いったい何の御用でしょう」
「うむ、久しぶりに。外気にあたった。今日は、湿気が多くて気持ちがよいのう。ちょっと、お前の手の上に乗せてくれ」
苔仙人は、僕の質問に答えず、僕の左手に、ぴょんと、飛び乗ってきた。意外と軽かった。体長は10センチくらいだろうか。
「仙人様。お写真を撮らしていただいてよろしいでしょうか?」
「何、写真?よろしい。苦しゅうない。色男に撮れよ!」
僕は、仙人様の機嫌を損ねてはまずいと思い、震える手で、シャッターを切った。
パシャリ!
「うむ。このところ、地球温暖化だの、森林伐採だの、砂漠化だので、わしらの生活環境が悪化しておる。心配じゃ」
「仙人様、よく勉強されていますね」
「お前たちが、もう少し、自然との共生を真剣に考えてくれないと困る」
「ごもっともです。仙人様!」
「うむ、お前は、よくわかっているようじゃ。お前はいい子じゃ。ご褒美に、お前だけに、特別の宝物をあげよう」
「えっ!た、宝物をいただけるんですか?」
僕は驚喜した。宝というからには、なにかものすごい秘宝に違いない。
「大きな宝と、小さな宝のどちらが欲しい?」
仙人は、そう言った。
「え、それは、大きなつづらと、小さなつづらみたいなものですか。それとも、玉手箱みたいに、煙がでて、あっという間に白髪のお爺さん、とか…」ぼくはなぜか不安が頭をよぎった。
「ええい、じれったい子じゃ!ワシは気が短いのじゃ!待っている間に、どんどん水分が蒸発していくではないか!」
苔仙人の態度が変わってきた。
「あ、はい、大きい宝で、お願いします」
「ふむ、分かった!大じゃな!」
ふんッ!!
苔仙人はそういって腰を屈め、ちょっと力むと
すぐソメイヨシノに飛びうつり、姿を消した。
後には、苔仙人のう●こが一個残っていた。