忙しかったのには、色々と訳がある。
一番大きかったのは、社内での異動だろう。
名は一般社員のままだが、実質の一製造工程リーダーとなった。
リーダーというのもまた名ばかりで、半分ほど主任の仕事をしている。
それは今まで私が従事してきた工程が、まったく違う部署の管轄となったからであり、仕事の内情を新しい私の上役である主任が知らないからなのだった。
著しく頭を使う。
脳が悲鳴をあげている。
今まで、確かに工程を切り回して来たが、それは育児休暇後に突然配置されてからずっと携わってきた機械相手、同僚相手だからなのだ。
けれど今回は、同じ工程にありながら製品のサイズが違うことで、教育すらまともに受けていなかった製品工程のリーダーとなってしまった。知らないと言って逃げたところで、自分の首を絞めるだけだと分かっている。
懸命に動く。
唇に腫れ物が出来た。
疲れからだろう。熱の花とも呼ばれるそれは、ヘルペス菌が引き起こす水ぶくれだ。
上役の上役が、帰宅する私に心配げな声を掛けてくれた。
私は首を横に振る。
いいえ、大丈夫ですと。
新しい部署、新しい人間関係、新しい役目、新しい機械。
どれを取っても覚えることばかりなのは明白だ。
しかし、嬉しいことでもあると私は思っているのだ。
自由がある。
指示されたことを期日までに終了させる――それは変わらないが、自分で考えて動くことができる幸せがある。
ずっと安穏としていたつもりで、本当は飽きていたのだ。
繰り返し、身動きの取りづらい水の中を泳ぐように、指示を待つ日々。
自分の良いところを発見する。
ダメなところを良いところと評価できるようになる。
それは新しい世界を知ったからだ。
なかなか難しい中間管理職だが、やるからにはやる。
現在の私には、それが命題。
いや、本当の命題は、会社での自信を心の安定に役立て、日々執筆に向かえるだけの強い精神と体力を得ることなのだ。
異動という転機を与えてもらえたことは、この下半期で一番の私の寿ぎとなった。
文章と生きる。
それが本質。社会を泳ぐ鯉となれ。
文字を書き、夢を描き、すべてを成す者とならんことを誓おう。
鳴り響く福音が波紋を広げるように。