
先日、電車の中で、靴を左右逆に履いている子供を見つけました。
私の前に立つその子は、某有名私立幼稚園と思われる制服に身を包み、悲しそうな顔をしてひとり窓の外を眺めています。
すぐに教えてあげようと思いましたが、その子の大人びた顔と、つま先が外に向いた靴の表情とが哲学的な雰囲気を醸し出していて、うっかり声をかけようものなら、
「好きでやっているんです。ほっといてください」とか、
「凡人には解らないでしょうが、これは社会に対するひとつのメッセージなのです」などと言われそうで、躊躇してしまいます。
まぁ、根が照れ屋であることが一番大きな要因なのですが。
もちろんそれからは読んでいた本に集中できなくなり、頭の中は、歩くたびに左足と右足が離れていって最後にまっぷたつになってしまう子どもで占められました。
これではいかんと思い、勇気を出して教えてあげることにしました。
他の乗客にあやしいおじさんと思われないように、ジェスチュアと小さな声で。
予期せぬ返答を期待する気持ちもわずかながらあったのですが、その子は私に負けず照れ屋のようで、顔を真っ赤にして靴を履き直しただけでした。
いいことした後は読書に没頭です。
途中の駅で、私のバッグをちょんちょんと突っつく小さな手があります。
見ると、さっきの子どもが「ありがとう」と言って降りて行きました。
もうなんかその言葉が嬉しくて嬉しくて。
その嬉しさを今日までひっぱっています。