『不感動症』~永世晶・初期作品~
あたしには生と死の違いが解らない
笑えない 泣けない 怒れない 恐くない
それは 嫌なことじゃないけれど
「あたしは生きているの?」
生きているかを確かめるために
どこかを裂いて
体液が赤く伝うのを見るのが日課
そんなに暑くなかった日だと思う
道路で猫が死んでいた
車にひかれたのはすぐに解った
左の目が飛び出して
振り子の様に揺れていた
あたしは暫く見つめていた
蔑む様な目をしていたかもしれないけれど
自転車に乗った馬鹿な子供達が
汚物を見るように
猫に罵声を浴びせていく
あたしは 薄く笑った
お前等だってこんなもんなんだよ と
あまりにも罵りの声が酷いので
あたしは猫を抱いて茂みに隠れた
躰はもう硬くなっていた
生きるために虫達がたかり始めていた
とても 嫌な ニオイがした
猫を抱き締めてみた
妊娠していたのか
内臓が破裂していたのか
そこだけは とても 柔らかかった
あたしは座り込んで死んだ猫を抱いて
左手首の深い傷を眺めていた
そして何とはなしに
これは「イイヒトのフリ」だと
天国の方向を見上げてみた
相変わらずの青空
何時もどおりの微風
ただ 猫が 死んでいた
あたしの目は壊れてしまったのか
あたしの心は壊れてしまったのか
一滴の涙も流れなかった
流さなかった
安い涙なんてものは
この猫には要らないのだ
死なずに道を渡ることの方が重要だったのだ
「あたしは生きているの?」
そう言ったら 病院に連れていかれた
正しい人間にならなければならないらしい
そんな生物はいないと思うのに
正しい と いうことは
この世界の多数決だと
誰も気付かないのだろうか
その日の出来事
猫が独りで死んでいた
あたしは何も思わなかった
解らないままだったので
今日もまた切り付けた
お目汚し失礼致しました。
気分が優れない方もいらっしゃると思います。どうかゆっくり深呼吸をしてください。
私を「お気に入り」としてくださった方への私の作品公開です。恩を仇で返すようで迷ったのですが…。
ただひとつ。
カテゴリによく「エロ・グロ」とかありますよね?
その分野の方々を否定するわけではありませんが、『不感動症』は血や死を軽く考えた作品でないということだけ添えさせていただきます。