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イベント/コラボ 2008/06/17

サントリー株式会社 アートディレクター 水口 洋二 氏のコンセプトメイキングを紹介!

クリエイティブのプロフェッショナルによる仕事にフォーカスするシリーズ、TOP RUNNERの第2回はサントリー株式会社(以下、サントリー)のアートディレクター、水口洋二さんです。
「ヒット商品はどうやって生まれるのか?」「商品のイメージは、どうやって決まるのだろう?」という商品企画の裏側は誰もが気になるところ。水口さんはアートディレクターとして「DAKARA」「Gokuri」「伊衛門」「アミノ式」等の数々のヒット商品の開発にかかわり、また、デザイナーとしては2004年に新装したサントリーのロゴを手がけました。
今回は、以前クレヨンワークショップでご紹介したGAS As Interfaceとロフトワークの「共同研究会」と銘打って、水口さんをloftwork Groundにお迎えしました。プロダクトの企画・デザインにおいて非常に重要な「コンセプト」の作り方をお伝えします!

何も決まっていない状態からチームを組んで新商品を開発

コンセプトチーム型商品開発

一般的な製造メーカーの商品開発は、技術開発部門が研究開発をしたら、マーケティング部門が商品化して、それをデザイナーに渡して、ある程度商品が固まってきたら広告を考える。というふうに、次から次へ順番に渡していくシークエンス型です。
サントリーの商品のつくり方はちょっと変わっていて、コンセプトチーム型という手法をとっています。とにかく何もない状態──強いていうなら液体をつくることとボトルに詰めることは決まっているけれど、そこから先は何も決まっていない状態──で、デザイナー、ディレクター、マーケッター、中身に関する研究者などのメンバーが集められ、そこら商品開発をスタートします。研究者にしても、デザイナーにしても、メンバーはそれそれR&D(Research and Development。研究開発活動)によるネタを持っていますが、とにかくまずはチームを組むことから始めて、コンセプトをつくり、商品をつくります。

製品、商品、ブランド

最初に一般的な言葉の定義を説明しておきます。製品、商品、ブランドでは、それぞれ意味が異なります。

・製品──製品は、規格(スペック)です。カタログの裏に書いてあるようなディテールでできています」。そうした事実の集合体が製品です。

・商品──商品は、スペックのまわりを、スペックから導き出された価値で包んだものです。スペックは事実であって、価値ではありません。スペックを、わかりやすい価値に変換して見せてあげないと、買う人にとっては「それがなぜいいのか?」わかりません。「価値をわかりやすく説明できているもの」が商品です。

・ブランド──ブランドには、商品から派生したもの(広報、競合、世相、ユーザー、流通、宣伝など)も含まれてきます。ブランドは、商品をとりまくさまざまな要素を、お客さんが理性と感性で理解したものです。メーカーは製品や商品はコントロールできますが、ブランドは消費者のアタマの中にあるので、コントロールすることは非常に困難です。

ぼくは「ブランドのコアとなる商品をどうデザインするか?」を仕事としています。コアのところに、すべてのコンセプトがつまっています。コンセプトがしっかりしていなければ、そのまわりのものもすべて、つまらないものになってしまいます。

商品の価値とお客さんの理性・感性をつなぐのがデザインの役割

コンセプト、スペック、ベネフィット

混同されがちな概念ですが、「コンセプト(概念)」「スペック(仕様)」「ベネフィット(価値)」を、明確に分けておくことが重要です。商品開発においては、まず最初にコンセプトをつくりますが、世の中は「退屈なコンセプト」であふれています。スペックの羅列をコンセプトと称していることが非常に多い。

スペックとベネフィット(価値)を混同している人もたくさんいます。「20年熟成したウイスキーです」と胸を張っても、それは価値ではありません。ただのスペックです。ベネフィット(価値)には、2種類があります。1つは機能ベネフィット。「アタマで理解する価値」です。理性に働きかけて、お客さんに「なるほど!」と思ってもらうもの。もう1つは情緒ベネフィット。「ココロで感じる価値」です。感性に働きかけて、「いいね!」と思ってもらうものです。
商品の機能ベネフィットを、お客さんのアタマへつなぎ、情緒ベネフィットをお客さんのココロへつなぐ。そのインターフェイスがデザインです。そしてこうした構造によって「お客さんのアタマのなかに残るもの」が、コンセプトといえるのではないでしょうか。
「DAKARA」を例に説明しましょう。「国民栄養調査をもとに日本人の不足栄養素、カルシウム、マグネシウム、食物繊維を配合するとともに過剰摂取の砂糖、脂肪、塩分を0にした、爽やかな味わいのスポーツドリンクです」。これはダメです。スペックをつなぎあわせた文章になっていて、「誰のためのモノなのか?」がわかりません。
では、「摂り過ぎと不足が気になる現代人をやさしく救うカラダバランス飲料」ではどうでしょう? これなら短い文章ですが、イメージが湧きます。「ちょっと太りすぎてる人が対象なんだ。厳しく指導するんじゃなくて、やさしく救う飲み物なんだな」と。「誰のためのモノなのか?」が明快なことは、コンセプトづくりにおいて非常に重要です。そういうコンセプトであれば、みんなが同じものを想像できます。このコンセプトからは、白い地に赤いハートが描かれたデザインが、すっと出てくるわけです

コンセプトづくりにおいてメタファーを活用することのメリット

メタファーを使ったコンセプトづくり

新しいコンセプトを人に伝えるときには、メタファーを使うと効果的です。メタファーとは「何かを何か(知ってること)にたとえて表現すること」です。人は「知ってること」だけしか理解できません。メタファーを見つけることができれば、知ってることを利用して、知らないことを伝えられます。「要するに、こういうことです」と伝えることができます。

「アミノ式」のコンセプトづくりのとき、ぼくは「ラジオ体操」というメタファーを探し出しました。なんだかラジオ体操はたのしい。ラジオ体操は気楽にできる。そこから「毎日アミノ」という言葉が生まれてきて、「運動したいと思っているけどできない人も、楽しく明るく」「運動していないという罪悪感を、気楽にさせてくれる」「痩せられる燃焼系アミノ酸入り」「日常を運動的に」といったベネフィットも見えてきました。
ラジオ体操というメタファーによって、「アミノ式の世界」ができてきました。ぼくがつくったコンセプトシートは1枚だけです。「運動不足の罪悪感を気楽にしてくれる、燃焼系アミノ酸を配合した日常運動飲料。燃焼系毎日アミノ。燃焼系アミノ酸1000mg配合」という文字と、ラジオ体操から着想を得た「毎日アミノ」のロゴのイメージ。その1枚のシートで、コンセプトをみんなに理解してもらえました。

マインドマップという方法

コンセプトづくりにはいろんな方法がありますが、ぼくは「マインドマップ」といって、アタマに浮かんだ言葉やイメージを次々と並べていく手法を使います。連想ゲームのようなものです。深く考えない。でも長く考え続けるのがポイントです。絵を描いたり、写真を集めたりして、イメージとキーワードのマップをつくっていく。音楽を使ったりもします。支離滅裂でもいいから連想を広げていきます。ぼくなんか、「アミノ式」のときにつくったマインドマップでは、「脂肪を燃やす」という言葉から「燃やす」つながりで「巨人の星」の星飛雄馬まで連想しています(笑)。

マインドマップをつくってからは、そこにある言葉やイメージを俯瞰的に眺めて、「これにたとえるなら、この商品はこうなるのでは?」という視点で、伝えたい世界観をあらわせるメタファーをすくい取る作業をします。何度も何度も適切なメタファーをすくい出そうとしてみる。そうやってだんだんとメタファーを絞り込んでいけば──ここだけが唯一「こうすればできます」とお伝えできない部分ですが──やがてコンセプトの構造が見えてきます。「要するにこういうことだ」というのが見えてきます。俯瞰的にメタファーを探しながら、細部(ベネフィット)も考えていく。なかなか難しいことですが、この2つが同時にできればすばらしいですね。

ちなみに、マインドマップで「何か」をつかみ取るためには、邪念を持たないことが大切です。先に「こういうのをつくりたい」という気持ちがあると、それに影響されてうまくいかない。「素」で見ることができるかどうか? 自分の趣味を消すことが大事です。

理性と感性のバランス

ビジネスにおけるクリエイティブでは、感性・ひらめき・表現力といった部分よりも、理性と感性をバランスよく使い分けることのほうが重要です。「人間の思考というのはこうだから、こうなるだろう」というふうに、99%までは理性で情報を整理します。そして、最後の瞬間にジャンプする。ジャンプに関しては、感性の部分ですから「こうすればうまくいく」とはいえません。でもみんな整理もせずにいきなり飛ぼうとします。だから大ケガするわけです。やっぱり足元をきれいに整理してからジャンプすることが必要です。

「要するに、こういうことです」というメタファーを見つければ、コンセプトをつかめるし、デザインもできてしまいます。たとえば自分の感情を伝えるときにも、メタファーを使って「いまの感情は○○です」といってみたりして、メタファーを見つける感覚を養ってほしいと思います。比喩能力には、新しいものをつくっていく力があるのですから。ぼくじゃないですよ、アリストテレスがそういってます(笑)。
(2008年6月6日(金)loftwork Groundにて)

ヒットする企画を生み出すために

「やる気が出るコンセプトのつくりかた」は、いかがでしたか? ヒットを生み出すカギは、物事を俯瞰して冷静に分析する作業と、商品を一言で印象付けるメタファーを導き出す感性にあるようです。こうして生まれたインパクトと説得力とを持った「強い」コンセプトは、商品の魅力を一瞬にして理解させ、人を動かします。これは大企業の商品開発だけに限らず、Webサイトやグラフィックイメージ、ロゴ、キャラクター等々・・・、コンセプトが求められるものづくり全般において、大切なことではないでしょうか。
クライアントの心をつかみ、「ヒットする」ものづくりがしたいと考えているクリエイターのみなさん、まずはマインドマップを使ったメタファー探しと、比ゆを使った感情表現を、実践してみてはいかがでしょうか?

☆コンセプトづくりのヒント —水口さんオススメの本

読みやすく、アイデアを考える上でとても参考になるそうです。(クリックするとアマゾンのサイトにリンクします。)
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アイデアのつくり方  ジェームス W. ヤング(著)、今井 茂雄(著) ティビーエス・ブリタニカ

メタファー思考—意味と認識のしくみ  瀬戸 賢一

レトリック感覚  佐藤 信夫 講談社学術文庫

レトリック認識—ことばは新しい世界をつくる  佐藤 信夫

「わかる」技術  畑村 洋太郎 講談社現代新書

「わかる」とはどういうことか—認識の脳科学  山鳥 重 ちくま新書

地頭力を鍛える  細谷 功 東洋経済新報社

水口洋二(みなくち・ようじ)

サントリー株式会社デザイン部アートディレクター
1965年、大分県別府市生まれ。1989年に九州芸術工科大学(現:九州大学)芸術工学部画像設計学科を卒業。同年サントリー株式会社入社し、現在に至る。
同社清涼飲料製品の「DAKARA」「GOKURI」「アミノ式」「伊右衛門」などのコンセプト、ネーミング、デザイン等を担当。現在のサントリーのCIロゴも水口氏のデザイン。
2003年からは九州大学芸術工学部の非常勤講師も務めている。