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イベント/コラボ 2008/06/03

デジタル時代の著作権 (2)未来のために今こそ著作権法を考えよう

著作権に詳しい岩倉正和弁護士をロフトワークにお迎えして伺った「デジタル時代の著作権」。前回、日本は、世界一厳しい著作権法を持つ国であることがわかりました。これを踏まえ、インターネット時代を迎え、その厳しい著作権法が日本のコンテンツ産業において足枷になっていると、岩倉先生は指摘します。
クリエーターがインセンティブを持って仕事できる社会にするためには、これからの著作権法はどうあるべきか。岩倉先生のお話は、いよいよ核心に迫ります。

著作権侵害は重罪なのに「守らない」のが当たり前?

日本の著作権法には、改良権、改善権、翻案権といった規定があり、他人の著作物を同意なしで勝手に作り変えることは著作権侵害にあたります。わかりやすい例でいえばパロディ。欧米ではアートの一ジャンルですが、日本では著作者の評判を落としたり、心情を害したら著作権侵害です。

「芸術は模倣だ」などと軽く考えると、著作権侵害は恐いですよと、岩倉先生の表情が変わりました。著作権侵害には刑事罪が適用されるのですが、ふつうの窃盗罪より罪が重く、「懲役10年以下または1,000万円以下の罰金」と、たいへんな重罪なのです。

著作権法にかかわるトラブルは、とくに芸術やクリエイティブに関する部分が争点となりますが、それが著作権を侵害するレベルのものなのかどうか判断する裁判官は、芸術に関しては素人ともいえます。審議には専門家のサポートが入るとはいえ、被害者・加害者どちらの正当性を認めるのか、判断しにくいのが現状です。
クリエイティブの関係者はトラブルを避けるために、普段からコンプライアンス(法令遵守)に注意を払う必要があります

ところが、著作権侵害は当たり前のように行われているのが実態だと岩倉先生は指摘します。身近なところで言えば、学校や企業、官庁などで資料として使われる本のコピーです。会議用に何十部もコピーして配布されます。著作権法の30条以降に例外規定が定められていますが、この行為はあきらかに違反。本の著者の著作権を侵害しています。

こうした行為は本来やってはいけない違法行為にもかかわらず、社会全般に広まっていると、岩倉先生は言います。誰も制限速度を守らずに車を飛ばす道路のように、法律を破らなければ効率が悪いというなら、社会のために法律を変えるべきです。法律はそのままにして、みんなやっているから見て見ぬふりをしようという社会は、健全ではありません。本来ならば、政府も民間も法律を守るべきなのです。そして、日本の著作権法もまた、そのあまりの著作者人格権の強さゆえに現代にそぐわない問題が起こっていると、岩倉先生は指摘します。

インターネット時代にそぐわない日本の著作権法

何が問題かと言えば、インターネットです。インターネット上に表現物であるコンテンツを流すと、公衆送信権、自動公衆送信権での規制を受けます。しかも、現行の著作権法では、著作者の許諾がなければコピー(複製)は許されません。
ところがインターネットでは、サーバーに入っているデジタル・コンテンツがブラウザに入り、ディスプレーに表示されるまでに厳密にいえば2~3回のコピーが行なわれているのです。日本の現行法下では、ホームページを閲覧するだけで「懲役10年以下または1,000万円以下の罰金」に相当する犯罪になってしまいます

さらに、配信に著作権者の許諾を必要とする現行法では、デジタル・コンテンツの流通がきわめて困難になります。たとえば、放送コンテンツや映画では、著作権者、隣接著作権者は軽く100人を超えます。その全員の許諾がなければ、インターネットで流すことはできません。99人が賛成しても1人が反対すれば侵害になってしまうのです。

現在の著作権のあり方では、インターネットでの既製コンテンツの流通は不可能です。著作者の権利は守らなくてはなりませんが、「ほんとうにこれでいいのでしょうか?」と、岩倉先生は疑問を投げかけます。10年後には、情報提供メディアの中心はインターネットに移り、そこでビジネスできないと生きていけないと誰もが思っているにもかかわらず、日本では現行法が足を引っ張っているのです。

アメリカのコンテンツ市場を活性化させた、「Notice and Takedown」のルール

DMCA自体は、さまざまな物議を呼んだ法律ですが、「Notice & Takedown」のルールはコンテンツ産業の発展につながりました。
DMCA自体は、さまざまな物議を呼んだ法律ですが、「Notice & Takedown」のルールはコンテンツ産業の発展につながりました。

アメリカの動画投稿サイト「YouTube」は日本語版もサーバーがアメリカ国内に置かれ、日本の著作権法の規制を受けないからこそ、可能になったと言います。

そんな「YouTube」を可能にしたルールとして岩倉先生が注目するのが、1998年にアメリカで制定された「Digital Millenium Copyright Act(以下DMCA)」(デジタルミレニアム著作権法)における「Notice and Takedown」というルール。これは、著作権侵害に気づいた(Notice)著作権者からの指摘があれば、サイト運営者がそのコンテンツを削除(Takedown)すれば責任は問われないというものです。

一方、日本を含むほとんどの先進国では、著作権侵害の著作物がネット上に掲載されただけで違法行為です。そのサイト運営者だけでなく、プロバイダまで著作権侵害になってしまいます。サイト運営者とプロバイダ側のリスクを回避し、コンテンツの流通を促進することにつながったという点で、「Notice and Takedown」のルールは画期的な内容でした。
このルールのおかげで、「YouTube」のような動画投稿サイトが世界中に膨大なユーザーを擁し、それが巨額の広告料を生み、ビッグビジネスになったのです。こうして、アメリカでは企業価値何十兆円もあるGoogleやYouTubeのような企業が台頭して経済を活性化し、多くのクリエーターたちに活躍の場が開かれたのです。

また、デジタル時代にあわせたフレキシブルな著作権の考え方のさきがけとなったのが「クリエイティブ・コモンズ」です。これは、スタンフォード大学ロースクール教授のローレンス・レッシグ氏が提唱したもので、これまでのように利権者だけが著作権を占有するべきではないという考え方です。というのも、古今クリエイティブは先人の作り出した著作物を真似ることによって発展してきたものです。すべての著作権が独占されてはクリエイティブは発展を止めてしまう、というのがレッシグ氏の意見です。
クリエイティブ・コモンズでは、「非営利」「改変禁止」など4項目を組み合わせた11種類のクリエイティブ・コモンズ・ライセンスを定め、一般のユーザーがその範囲内で著作物を自由に使えるように規定されています。

クリエーターがインセンティブを持てる国に

日本でもインターネット上で自由なコンテンツの流通が可能になれば、大きな可能性が広がると岩倉先生は力説します。日本のアーティストやパフォーマーが、世界を舞台に活躍できるし、無名の人が突然世界で脚光を浴びる可能性もあるのです。
新しいクリエーターがどんどん新しいコンテンツを創っていけば、日本は経済だけでなく文化の面でも世界に向けて発展することができるでしょう。

そのためには、これからの社会では現在のようにキラーコンテンツを持つ一握りの著作権者が大きく儲けるというのではなく、ロングテールで安く著作権使用料を定め、みんながコンテンツにリーチできるような仕組みを作る必要があります
こう言うと、5,000円のものを300円で売りたくないと言う意見が出ます。その通りです。しかし、例えば5,000円の価値があるキラーコンテンツでも、YouTubeに載ったときに著作者が「けしからん」と言って削除させていれば、生まれるお金は0円でしかありません。

YouTubeは、ライセンスを許諾してもらえれば使用分のインセンティブは支払う、という方針を採っています。
「1回の使用料を300円にしても、20回使ってもらえば6,000円になるのです。このほうがいいと思いませんか。このほうが、コンテンツ産業は発展すると思いませんか。」岩倉先生たちはそう考えます。

日本も、こういう時代に即した著作権法に変えましょうと、岩倉先生らの「デジタル・コンテンツ法有識者フォーラム」では今年3月、「ネット法(仮称)」を提言しました。これにより、規制を緩和することで日本のコンテンツを世界に発信し、また世界のコンテンツを日本で流通させることが容易になります。

実現にはさまざまな困難が伴いますが、みんなで頭を絞り、侃々諤々の議論をしてほしいと、岩倉先生は訴えます。
今のこどもたちが大人になった時、著作権の面でもインターネット技術の面でも、クリエーターがインセンティブを持って活躍できるよい国にしたい。そのためには、ほんとうに今のままでいいのか、今こそ考えてほしいと、岩倉先生は最後に力強く訴えました。

岩倉正和(いわくら・まさかず)

1962年東京生まれ。83年司法試験合格。85年東京大学法学部卒、最高裁判所司法研究所入所。87年最高裁司法研究所卒、西村総合法律事務所(現西村あさひ法律事務所)入所。
93年米ハーバード大学ロースクール卒、ニューヨーク州司法試験合格。96年西村総合法律事務所(現西村あさひ法律事務所)パートナー弁護士、02年同事務所経営会議メンバー就任。
一橋大学大学院国際企業戦略研究科教授(現任)。07年ハーバード大学ロースクール客員教授。
数多くの大手企業のM&A案件を手がける一方、知的財産法の専門家としてインターネットや著作権関連の政府委員会の委員を務める。「ネット法(仮称)」を提言した「デジタル・コンテンツ法有識者フォーラム」のメンバーでもある。
『知的財産法概説』(共編著、弘文堂)や『新会社法実務相談』(監修・共著、商事法務)など著書・論文多数。


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