Interview:東京郊外の30地域を、ありのままにアーカイブする/松岡真吾

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映像作家・松岡真吾さんは、東京郊外の多摩地区を紹介する出版社「けやき出版」で編集者として働きながら、東京都23区外の30地域を1箇所ずつ撮影しアーカイブ映像を残す「La Vie Landscape Archives」シリーズ作品をたったひとりで手がけています。


松岡さんの映像作品は「わかりやすさ」「キャッチーさ」が是とされるWebムービーの常識から逸脱し、繰り返し見るほどに発見があります。昔ながらの商店街や子供で賑わう小さな公園、団地やモノレールといった東京の郊外特有の風景と人々の営みをミクロに切り取りながら、やがて地域の全体像を俯瞰する映像群。30地域を丹念に歩きまわり、記録する作業は途方もないものです。


なぜ松岡さんは、このプロジェクトに取り組んでいるのでしょうか。


わたしたちが松岡さんと出会うきっかけとなった、兵庫県の里山・多可町のPRムービー共創プロジェクト『TAKA VIDEO CAMP』にも触れながら、その制作の背景を伺いました。





《La Vie Landscape Archives「in Tama City」/多摩市》




とにかく、どんどんアイデアを形にしたかった学生時代

ー編集部(以下略):映像に興味を持ったのはいつごろですか。

松岡さん(以下略):地元の岐阜にいた頃の高校時代、ぼくの家の周りにはレンタルビデオ屋のゲオくらいしか娯楽施設がありませんでした。それで下校の時に日常的にDVDを借りて家に帰るようになり、だんだんと映像に興味を持ち始めました。


邦画が好きで、青山真治監督の『エリ・エリ・レマ・サバクタニ』という映画は映像に引き込まれた一つのきっかけです。浅野忠信さんと中原昌也さんがノイズミュージシャンの役で出ているんですが、クライマックスのライブシーンが当時の僕には圧巻で「映像ってストーリーが無茶苦茶でも一個のシーンがぶっ飛んでればアリなんだ」と思ったことは覚えてます。


高校では芸術学部でデッサンの勉強をしていたんですが、音楽や映像への興味が高まって映像学科のある関東の美大へ進学しました。



ー大学生時代はどんな映像を制作していたんですか?

映像制作は、基本的にチームを作って照明や音声など役割を分担して制作することが多いです。でも、ぼくはひとりで映像を作りたくて。長い時間をかけて1つの作品を作るより、思いついたアイデアをすぐに形にしたかったんです。


学科の他の学生がチームを組んで学校から機材を借りて撮影しているなかで、ぼくは電気屋で2万くらいで買ったデジカメの動画機能でずっと撮影していました。被写体はサークルの友達に協力してもらって、企画から脚本、撮影、編集、音楽まで全部自分ひとりでやっていました。悲しいかな、映像学科の同級生とは話が合わなかったので、あまり友達がいませんでしたね。



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ー学生時代に制作した短編映画が「イメージフォーラム・フェスティバル 2013」でノミネートされていましたね。

いま見ると相当恥ずかしいんですが…。友人に演技してもらって、ひたすらノイズ音楽の流れる中で画面に向かって独白し続ける短編映像が公募部門でノミネートされて、東京と京都の会場で上映してもらえました。


寺山修司の映画『書を捨てよ町へ出よう』の冒頭みたいなものを作りたかった記憶があります。学生時代は、とにかく頭に思い浮かんだアイデアをどんどん映像にして「形にしたい、吐きだして画にしたい」という、アウトプットへの渇望が強くありました。撮影して目で見たものを、時間差で家でデータで見るのがおもしろかったんです。普段からカメラを回していて、友達と遊んでる間もずっとそのしょうもない様子を撮影していました。



ー卒業後はどんなことをしていましたか?

新卒で広告制作会社に入社しました。CM制作プロジェクト全体の進行管理をする仕事で、プレゼンから撮影、編集までの全工程に携わる職場でした。僕は地方ロケの撮影が多くて、今考えると街のリサーチのノウハウなどはそこで先輩から学んだものがとても多かったです。


仕事も日本トップレベルの映像業界の方々と多く携われる恵まれた職場だったのですが、この仕事で10年後、20年後に大成している自分の姿がまったく思い浮かべることができなくて…。広告の何十人、何百人のチームで何千万円、何億円の仕事を回すという仕事は、ぼくが一生かけてやるべき仕事だとは思えなかったんです。ぼくなんかよりもっと実力があって、クレバーな人がたくさんいたので。


それで、3年ちょっとで退職させていただきました。映像がやりたくなったら、また一人で趣味でやればいいかなと思い至りました。



東京郊外30地区を「ありのまま」映像でアーカイブする

ー今、松岡さんが作っている映像作品シリーズ「La Vie Landscape Archives」について、その内容と作り始めた経緯を教えて下さい。

ぼくはいま、東京都多摩地区の地域情報を発信する「けやき出版」という出版会社の編集メンバーとして働いているんですが、『La Vie Landscape Archives』は、けやき出版が制作・発信する地域のアーカイブ映像シリーズです。東京23区外の30の地域を1箇所ずつロケして、映像を制作しています。


ぼくがけやき出版に転職するときに、面接で「地域の映像アーカイブも作ってみてはどうか」と提案をしたら、入社して実現することになりました。会社で作ると言っても、自分ひとり作るんですけどね。




《La Vie Landscape Archives「in Akiruno City」/あきる野市》



―ひとり制作体制、ふたたび…ですね。地域密着型の出版社が、アーカイブ映像を作る意義はなんでしょうか?

普段、けやき出版は雑誌づくりをしているんですが、もともと「なにか別の方法でも地域を紹介できたらいいね」という話がありました。誌面と映像とでは伝えられるものが違うはずで、映像はその場所の空気感や雰囲気など紙では伝えられない部分を紹介できるのではと思います。



ー撮影にはどのくらいの時間をかけていますか?

撮影は1日で終えるようにして、朝から夜までの1日を歩いた道順どおりに映像をつなげています。何日かに分けて撮影したカットをつなげると、天気や日の傾きなど影響で、景色や色味がちぐはぐになって気持ち悪くなってしまうので。


地元の人が映像を見たら、撮影ルートがわかるはず。予めネットで、その土地の公園や商店街など特徴的な風景がある場所に目星をつけておいて、それらをルートに入れながら撮影しています。



ー まるで、散歩しながら撮影しているみたいですね! 映像の中では地域ごとにランドマークなど特徴的な風景を捉えていて、一口に「東京の郊外」といってもそれぞれの街の個性が感じられます。

雑誌でもテレビでも「東京」というとほとんどが23区のことですが、その外の市町村にも「東京」の姿はたくさんあります。その大部分は「郊外」と呼ばれるもので、一見すると都会でも田舎でもどちらでもない、無個性にも見える区域です。でも実は、よく見ると街ごとの生活から滲むカラーの濃度が高いんです。



ー人の表情やシーンの切り取り方も、おもしろいですね。歩きながらつまづくおじいちゃんや子どもたちなど、絶妙な瞬間がでてくるので目が離せません。



《La Vie Landscape Archives「in Kunitachi City」/国立市》


撮影のときは、常にキョロキョロしながら歩いてます。良いなと思う瞬間を撮ることもありますが、しばらく同じ場所に立って人が来る瞬間を待ち構えることもあります。


シリーズを撮り続けているうちに「ここで待ってたら、向こうから来るあの人が、ここでこういう動きをするな」と予想するなど、直感的に何かが起こりそうな場所がわかるようになりました。



ランドスケープ的映像を支えるクリエイティブ

ー兵庫県の山里・多可町のPR映像共創プロジェクト「TAKA VIDEO CAMP」では、「多可町のテレビマン」を主役に、これまでのアーカイブ作品とは違ったアプローチの映像作品を提案していましたね。



《松岡真吾『ぼくは多可町のテレビマン』ビデオコンテ》


TAKA VIDEO CAMP」では地域のPR映像を作るのがお題だったので、普段制作している映像に比べて、よりフックになる要素が必要になると考えていました。それで、だれかメインキャラクターになる存在を作ろうかなと。


多可町をまわっている時に、たまたま取材でぼくのリサーチに同行してくれていた地元のケーブルテレビ局『たかテレビ』カメラマンの足立さんのことが気になりました。話を聞いているうちに、『たかテレビ』が地元での視聴率が80%もあること、足立さんが町の皆と仲が良いということがわかり、彼を中心にモキュメンタリー形式のストーリーを作りました。



ービデオコンテのレベルが高く、音楽と映像との組み合わせもすごく良いと審査員の中で話題でした。

まあ、負けたコンペではあるんですけれど…音楽は友人のバンドの楽曲を使わせてもらいました。『La Vie Landscape Archives』のシリーズでは、『Captain sic minde』というまた別の友人ミュージシャンの楽曲を使わせてもらっています。


ぼくの映像は決してキャッチーではなく、どちらかといえばランドスケープ的な志向が強いです。それだけに、彼らの音楽の作用はとても大きいですね。ぼくの映像作品に最後まで観てもらえる魅力があるとすれば、その6割以上は楽曲の力だと思っています。



―音楽も含めて、松岡さんが撮る地域の映像ではハイコントラストな色彩表現や現代的なタイポグラフィなど、全体としてソリッドなイメージに仕上げているのが印象的です。

ありがとうございます。タイトルのタイポグラフィは『kawakami daiki』というデザイナーが手がけてくれています。彼は大学時代の先輩であり飲み友達です。最近は、個人でも活躍しています。


文字で街を表現するというのも、このシリーズでの試みのひとつです。例えば「川で夏のノスタルジーな感じ」「夜の郊外でアーバンな感じ」「ストリートで文豪な感じ」など、撮った季節と地域ごとのラフなイメージをデザイナーに投げかけています。タイトルワークに関しては、こちらからは直し要望を出さずに任せているので、デザイナーに自由演技をしてもらっている感覚です。




《La Vie Landscape Archives「in Mitaka City」/三鷹市》



記録者として地域をみつめる眼差し

ーこれから、チャレンジしたいことはありますか?

『La Vie Landscape Archives』シリーズの映像は10地区まで作ったんですが、あと20地区全て作りきりたいですね。ぜんぶ完成してから価値が生まれる作品だと思っています。



ー あと20地区! ひとりで作り続けるには、大変な数ですよね。松岡さん自身が、このシリーズを作り続けるモチベーションはなんですか?

観光地ならまだしも、東京区外30地区の映像アーカイブなんてきっと誰も撮らないし、正直、実益は全然ないんです。実際に誰もやってないですから。でも、蓄積することで作品に宿る狂気や「何にもならないもの」からにじみ出る愛おしさは確実にあります。それらを言語とは違う方法で切り取るのに最も適した媒体が、映像なのだと考えています。


もともとぼくは地方都市出身ですが、郊外を含めたローカルが抱える、前にも後ろにも行けないどうにもならない感覚は肌身で感じています。「便利さはないけど、豊かなローカル生活」のような、都市の人間が地方に期待する「ほっこり感」が適用できない街も多くあります。むしろ、そういう場所の乾いた空気や温度感をフラットに残したいという気持ちは強いです。


「がんばって地域を盛り上げたい」とか「どうにかしたい」という気持ちではなく、ひたすら今の姿を俯瞰でアーカイブするだけです。いま、東京郊外で再開発が進んでいるなかで、街の景色そのものがどんどん変わっています。このシリーズでは、ドキュメンタリーのように今しか撮れないようなものを撮りたいんです。


何十年後に、地元の人がこのアーカイブ映像を見て懐かしんでくれたり、ネットサーフィンの果てにだれかがYouTubeの関連動画にズラズラっと出てきた映像を観て「なんだこりゃ」って思ってくれたら嬉しいですね。



ー 30地区の映像を完成するのが楽しみです。ありがとうございました!




Profile:

profile_photo松岡真吾
岐阜県岐阜市出身、東京在住。1991年生まれ。広告制作会社勤務を経て、東京多摩エリアの情報発信を行う地域出版社・けやき出版に入社。雑誌「たまら・び」、WEBメディア「とばなれ」の企画・編集に携わる。並行して多摩地域30市町村の街を記録し配信するシリーズ「La Vie Landscape Archives」を学生時代の友人と共に開始。ライブ撮影やMVの制作も手がける。
Website:http://city-report.tumblr.com/


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