今回から始まる新しいシリーズ“Top Runner”。このシリーズでは、クリエイティブの分野の第一線で活躍し、クリエイティブの「今」を開拓し続ける人々をご紹介します。第1回は、日産の「Be-1」「PAO」のヒット商品をうみだし、現在 au の外部デザイン・ディレクターを勤める坂井直樹氏をロフトワークにお招きしました。数十年にわたり日本のプロダクトデザインをリードし、60歳を迎えた今もなお前線を走り続けている坂井氏に、そのバイタリティーと活動力の秘密、デザインがもつ「社会を変える力」について伺いました。日常のすべてが仕事。貪欲に情報を収集し、出し惜しみせず発信24時間仕事をしていますぼくはワーク…

特集

2008/02/22 INTERVIEW INTERVIEW

コンセプター 坂井直樹 「デザインは、世界を変える」

今回から始まる新しいシリーズ“Top Runner”。このシリーズでは、クリエイティブの分野の第一線で活躍し、クリエイティブの「今」を開拓し続ける人々をご紹介します。

第1回は、日産の「Be-1」「PAO」のヒット商品をうみだし、現在 au の外部デザイン・ディレクターを勤める坂井直樹氏をロフトワークにお招きしました。
数十年にわたり日本のプロダクトデザインをリードし、60歳を迎えた今もなお前線を走り続けている坂井氏に、そのバイタリティーと活動力の秘密、デザインがもつ「社会を変える力」について伺いました。

日常のすべてが仕事。貪欲に情報を収集し、出し惜しみせず発信

24時間仕事をしています

ぼくはワークそのものが大好きで、極端に言えば24時間仕事をしています。朝6時に起きて、まずブログを2本つくります。1日に10冊ぐらいの内外の雑誌に目を通しているので、その日いちばん面白いなと思ったものをgoogleで調べて、自分の意見を添えてエントリーします。それが「デザインの深読み」「イザ!」のブログでは携帯のデザインの話をしています。

パソコンを常時立ち上げて、同時に一日中テレビを観ているんです。テレビがつまらないときはラジオ。次に何が聞こえてくるかわからないからドキドキできるので、ラジオは好きですね。
ものすごい情報を浴びて、まるで自分がスキャナーのようにスキャニングしています。情報の洪水を批判する人は多いですが、その洪水を泳ぎながらも必要な情報を瞬時に選択する自信がありますから問題はありません。ときには、今のマーケットを感じるために、渋谷のセンター街を歩いて、みんながどういうものに関心を持っているかを感じ取ったりもします。

朝から晩まで仕事をして、友人とコミュニケーションし、音楽を聴き、映画を観て、ウェイトトレーニングをしたり、新聞を端から端までまで読んだり。そういう意味ではたいへん忙しいですが、別に努力している訳でもなく、これらすべてが僕の生活(Life)で,なおかつ仕事(Business)で、それを楽しんでいるだけなんです。

坂井氏のブログ。「デザインの深読み」(左)と「デザインのたくらみ」(右)。
坂井氏のブログ。「デザインの深読み」(左)と「デザインのたくらみ」(右)。

刺青Tシャツが全米で大ヒット

19歳のときにはじめて手がけた仕事がTatooをモチーフにしたTシャツ。なぜTatooかといえば、本来アウトローのものだった入れ墨をモードというぜんぜん違う価値感の世界に置き換えてみたかったのです。これが大ヒットして、西武デパートが1枚1万円で200枚買い上げてくれました。その収益を元手に渡米して、サンフランシスコでTatoo Companyを立ち上げたんです。

TatooのTシャツは現地メディアでも大きく取り上げられて、毎月約1万枚が売れました。年間の収入は3億6000万円ぐらい。でも、結局その事業の収益はほとんど使い果たしてしまって、日本に帰ってきたときは50万円しか残っていませんでした。

その50万円でつくったのがWaterという会社です。仲間と共同で原宿に「ヘルプ」という店を出して、自分たちでつくったものを自分たちで売る、ということをしていました。今のIT企業がそうであるように、70年当時はアパレルがベンチャービジネスでした。ぼくだけじゃなく、コム・デ・ギャルソンも、 45rpmも4℃も、みんな20代の若者でした。こうしてぼくは、40歳までファッションの仕事をしていました。

世の中を動かすプロダクトデザインと、コンセプターという仕事

世界が驚いたBe-1のデザイン

初めて手掛けたプロダクトデザインが日産自動車のBe-1です。87年に限定1万台が1週間で売り切れるという大ヒットになりました。それまで自動車は、四角いデザインと丸いデザインをおよそ7年周期で繰り返していました。80年代前半、車はみんな四角いデザインでした。そこに突然現れた丸いデザインの車というのは非常に意味があったし、社会にインパクトを与えたのです。
メーカーで働くプロダクトデザイナーたちは、「自分たちが最先端のデザインをつくらなきゃいけない。時代を先取りして、もっと未来的なデザインにしなければならない。」などと考えていた時代です。
デザインを考える上で、ぼくがしたことは「風景のなかにクルマを置いてみる」ことでした。そのときに、「丸くて黄色い車があったらいいな」と思ったんです。
黄色にした理由は、いちばん売れてない色だと聞いたからです。いちばん少ない色がいちばん目立ちます。僕は今でも変わらず人のやらないことをやるのが好きです。

Be-1のデザインは今見ればふつうです。でも当時はそういうサブカルなクルマを作ろうという発想はいわば「コロンブスの卵」でした。街を走らせると女学生たちが「かわいいー!」と騒ぐ。そんなスヌーピーのような車はそれまでなかったのです。Be-1以降、世界中の車は丸くなったままいまだに四角に戻りません。これは一度柔らかい丸いエレガントなフォルムをユーザが経験すると軍用車のような機能主義の固まりのような四角いクルマにはもどれないですね。よほど新しい素材か製造の方法でも変わらない限り、このトレンドはしばらく変わりません。つまりBe-1というたった一台の、たった1万台しか作らなかったアジアの小さな国に生まれた車が世界のカーデザインのトレンドを変えたとも言えます。

95%は面倒なコミュニケーション

Be-1ができるまでに、ぼくは巨大な企業の中で、100回以上のプレゼンテーションをくり返しました。販売部門、生産部門、経営者……あらゆる部署に向かって「なぜBe-1をやらなければいけないか」「なぜ日産がやらなければいけないか」という話をしたんです。
新しい商品を作るために費やしたエネルギーのうち、95%がコミュニケーションで、デザインに費やしたエネルギーは5%ぐらい。でもぼくは、そういう面倒なコミュニケーションをするのが大好きです。女性もそう。ぼくのことが「嫌い」という人しか興味がわかんくて口説かない(笑)。はじめから「大好き」といってくれたら、その瞬間に興味がなくなります。企業が相手であれ、女性であれ、自分の力を試したいからかもしれません。しかしコミュニケーションにおいては、説得という言葉はあまりいい言葉ではない。説得というのは傲慢な感じがします。むしろ相手の意見や考え方を理解することがいちばん納得してもらうことに重要なことだと思っています。

コンセプターという仕事

ここ数年、auの外部デザイン・ディレクターという形でメディアに出ることが多いのですが、ぼくの仕事名はコンセプターを名乗っています。コンセプトワークの最初に、まずデザイナーのキャスティングをします。この場合、ぼくがデザインをするわけではないので、デザイナーとは競合関係にならずに、自在にチームを組むことができます。ぼくはディレクターやプロデューサーとして、つくりたいもののイメージをさまざまな方法で彼らに伝えます。
デザインはできるけれども、あえてやらない。その理由は色々あります。欲張りなので、若い才能をみつけて試したいというのもあるし、自分だけではできない多様な表現やデザインカテゴリーに挑戦したいということです。
このとき、ぼくの役割はコンセプトワークです。コンセプトを伝えてデザインしてもらい、ぼくがそれをサポートする。そして成功をわけあうという、コンセプターの自由さが気に入っています。

好きなことだけするが行動基準の60歳、デザインの可能性を語る

革命力は、アマチュアにある

ぼくの場合は、どの分野でもなぜか?いちばん初めにやった仕事が、いちばんうまくいくんです。ファッションではTatooのTシャツが最初だったし、プロダクトデザインも最初の車Be-1がいちばんうまくいった。つまり言ってしまえばアマチュアのビギナーズラックにも見えます。プロフェッショナルの人たちには知識や情報、技術があるので、改善することには向いています。しかし社会を変えるのは、そういうスキルから離れたアマチュアリズムです。宮崎県の東国原知事ももとは芸人で行政のプロではありません。坂本龍馬も政治の素人でした。革命(イノベイション)は、常にアマチュアが起こします。だから、ぼくは常にアマチュアでいたい。
新しい分野に挑むときはものすごく勉強しますが、ぼくに専門分野はありません。ただし好きなことしかやらない。それが一つの行動基準です。いくら努力しても嫌いなことは身につかないですから、我慢しなくていいと思う。
挑戦することに意味があると思います。失敗の可能性の無い挑戦などというのはありえません。失敗するという不安から行動を起こさないことが、いちばんの失敗です。行動すれば、かならず結果がでます。結果が出れば、正否は別にして修正していくことができますから。

世界を変えるデザインの力

昨年の9月、60歳になりました。毎年新しい事業を起こしていますが、一貫して、デザイン、クリエイティブと関わっています。今はシステムエンジニアと一緒に仕事をしていて、携帯にまつわるシステムやソフトウェアの分野で新しいものをつくりたいです。皆さんは笑うと思いますが、スティーブ・ジョブズに負けたくないと思っています(笑)。

デザインは人々の生活を変えることができます。たとえば任天堂のWii。プレステはどんどんパワーアップしてゲームマニアにはたまらない満足を与えますが、おばあちゃんには操作がわからない。でもWiiなら遊べます。Wiiを通じておばあちゃんも孫と一緒にゲームが出来るという新しい生活を作り上げました。任天堂はNew Life Creatorです。
あるいはアップルのiTunes。ぼくはこれを手に入れてから、大量に持っていたCDをぜんぶHDDに取り込んで、ブックオフに売りました。iTunes が空間を占拠していたCDライブラリーの要らない新しい生活を創造してくれたんです。かつてのウォークマンが新しい生活を創造たように、、
ぼくは商品をつくるときは「その商品が世の中を変えるか?」「人々の生活を大きく変えることができるか?」を考えます。新しくモノが生まれたことによって社会が変わる。それがデザインです。デザインは世界を変える、素敵なことです(笑)。

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