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2010/08/03 INTERVIEWS INTERVIEWS

未来美術家 遠藤一郎 FOR THE FUTURE

遠藤一郎 FOR THE FUTURE

人と未来をつなぐ、絆のアート

「未来芸術家」遠藤一郎さんは、上海万博(2010)や「101TOKYO Contemporary Art Fair(2009)」、別府現代芸術フェスティバル2009「混浴温泉世界」、などなど、話題のアートイベントに登場し、パフォーマンスや参加型の大規模プロジェクトで注目を浴びている若手作家です。
自らのことを「すごくうまい油絵を描くわけでもなく、精密な彫刻をするわけでもない」と語る遠藤さん。そのユニークな肩書が意図するのは、「現代に生きているから、どうせなら未来を目指した方がおもしろい」という底抜けにシンプルな考え方でした。

その活動は、たとえば美術館でほふく前進をしたり、巨大な連凧で温泉マークを描くなどといった、奇抜なパフォーマンス。これらがどうして人々の心をつかんでいるのか? そしてなぜ、これが「芸術」なのか? ロフトワークが運営するクリエイティブな勉強会「OpenCU」にて、遠藤さんのプロジェクトの背景にある、深い意図を語っていただきました!

ロフトワークの運営するクリエイティブの勉強会「OpenCU Class」

ロフトワークの運営するクリエイティブの勉強会「OpenCU Class」


ボイス展に「今生きている人のアクション」を

「愛と平和と未来のために —ほふく前進一日8時間、46日間」のプロジェクトは、2009年10月~2010年1月にかけて水戸芸術館で開催された企画展「Beuys in Japan:ボイスがいた8日間」展で行われたものです。ドイツが生んだ、現代の偉大なアーティスト、ヨーゼフ・ボイス(1921-1986年)は、誰もが創造者であって、誰もがアーティストで誰もがアクションを起こすべきという考えを持っていたそう。
この考え方が遠藤さん自身の活動と通じていることに着眼したキュレーターが、企画展のプログラムに「今生きている人のアクション」を組み込むという意図で遠藤さんを抜擢。そこで、遠藤さんがチャレンジしたのが、展覧会開催中に水戸芸術館の広場や建物で「ほふく前進」をし続けるパフォーマンスでした。

季節は真冬。噴水に氷が張るほど寒く、石畳は「ただの解けない氷」…「正直、死ぬかもしれないと思った」(遠藤さん)

季節は真冬。噴水に氷が張るほど寒く、石畳は「ただの解けない氷」…「正直、死ぬかもしれないと思った」(遠藤さん)


遠藤さんにとって、ほふく前進は突発的に思い浮かんだのではなく、人々が「今」をどう生きるか、「これから」どう生きるのかを伝えるためにやりたいと思って温めていたアイデア。
「今、人の移動も情報の流れも、人が本来持っている速度からかけ離れてものすごい速い速度で進んでいます。でもこれからは、100年くらいかけてその速さを本来ある人間の速度に戻すという作業が必要になってくるんじゃないかと思い、その表現方法としてほふく前進をすることにしたんです」(遠藤さん)

一日二日、ひとりでほふく前進をしただけでは、美術館がやっている「へんてこりんなパフォーマンス」で終わってしまうと考えた遠藤さんは、48日間、毎日ほふく前進をすることに。真冬の空の下、美術館の広場にテントを張り、いつも決まった時間からスタートし、8時間ぴったり行いました。

8時間ほふく前進をすると、体中がボロボロに。用意した真っ白なつなぎもご覧の通り。

8時間ほふく前進をすると、体中がボロボロに。用意した真っ白なつなぎもご覧の通り。


ひとりとの出会いが、大きな輪へ

遠藤さんは、出会った人には自分からアプローチすることが大事だといいます。自分は広場でたった一人ほふく前進をするという怪しい存在。逆に自分から相手を受け入れなければ、相手も自分を受け入れてくれないと考えたのです。
自ら挨拶をして、返してもらって第1歩。次に会話になり、だんだん人の輪ができ、そのうち、広場でほふく前進している人がいるのが当たり前の風景として溶け込めばいいな、というイメージを、プロジェクトのはじめのほうから描いていました。

ほふく前進をはじめて3日後、プロジェクトのゆくえを大きく進展させる出来事が起こります。近所の弁当屋のおばさんが、遠藤さんにお弁当を差し入れてくれたのです。
「はじめ見たときに気持ち悪いと思ったんだけど、毎日やってるわね。いつまでやるの?」

おばさんとの出会いから、周りの人々が遠藤さんを受け入れるようになった。

おばさんとの出会いから、周りの人々が遠藤さんを受け入れるようになった。

それから、弁当屋のおばさんは毎日差し入れを届けてくれるようになりました。この出来事をきっかけに、美術館の掃除のおじさん、おばさん、さらには家族連れや学生などが、遠藤さんに話しかけるようになりました。差し入れをする人は次第に増えてゆき、弁当のほかに漬物やフルーツなど、ひとりで食べきれないほどでした。ある人は石畳の照り返しがきついという話を聞いてサングラスを差し入れ、また、日焼け止めを差し入れる人もいました。こうして、いつの間にかだれともなく差し入れはテントに入れておくというルールができあがりました。

「大げさにいえば、社会が成り立ち始めたんだなと感じました。ルールができて、秩序ができて。誰かが強制したものではなくて、そこに必要だから自然に出来た秩序なんです」(遠藤さん)

幼稚園児たちと一緒に!

幼稚園児たちと一緒に!


大人も子供も、たくさんの人たちが遠藤さんにつづいた

大人も子供も、たくさんの人たちが遠藤さんにつづいた


ほふく仲間はどんどん広がる

差し入れはひとりで食べきれないので、周りの人たちもご飯に誘う。そのながれで、だんだんと話しかける人が増えゆく。中には、遠藤さんと一緒にほふく前進をしたいと言う人々も現れました。そうして、子どもや学生、大人までもが、遠藤さんといっしょに美術館の周辺を這いまったのです。プロジェクトの終わりが近づくころには、遠藤さんの姿が、広場の風景にあたりまえのようになじむようになりました。そして、一度会った人たちが、もう一度会いに来てくれたりもしました。

「僕は、ほふく前進をしているだけなんですよ。それだけなのに、必要なものがだんだんそろい、どんどん輪がひろがり、色々なものを与えたり与えられたりする。これは偶然のようで、偶然ではないんです。ほふく前進なんて、普通の生活や過ごし方ではありえない出来事だと思うんですが、それも次第に不思議ではなくなってゆきました」(遠藤さん)

ほふく前進したまま、日常風景に溶け込む遠藤さん。もはや、だれも遠藤さんを「異物」として認識しない。

ほふく前進したまま、日常風景に溶け込む遠藤さん。もはや、だれも遠藤さんを「異物」として認識しない。


最終日には、感謝祭を開き、お世話になってくれた人たちが大勢集まってみんなでお祝いをしました。「48日間、一回も風邪をひかずに続けてこれたのは、いろんな人たちとのささえあいと絆が生まれてできたこと」と語る遠藤さんが、関わってくれたすべての人々に感謝をこめて描いたメッセージ。

『絆ありがとう
未来へ』

最後は、これまで遠藤さんを支えてきた大勢の人たちが集合。再会とプロジェクトの成功を祝いました。

最後は、これまで遠藤さんを支えてきた大勢の人たちが集合。再会とプロジェクトの成功を祝いました。


「絆」と「未来へ」に込められた思い

絆や心が目には見えないもの、という一般的な考え方に対して、遠藤さんは「絆や心は間違いなく見えるもの」だと主張しています。そして、その力が未来を作るものだと信じてメッセージを発信し続けています。

遠藤さんが繰り返し行っているプロジェクト一つとして、各地でたくさんの人々の「夢」が描かれた巨大な連凧を揚げる「未来龍」というものがあります。別府で実施したプロジェクト「未来龍 別府大空凧 —出た、世界最大の温泉マーク」では、連凧で巨大な温泉マークを作りました。連日ワークショップを開催し、できた凧をひたすらつなげて毎日揚げるという積み重ねの作業の甲斐あって、最終的には最終的に最大170メートルの連凧を揚げました。

よーく見てみてください。これが、世界一の温泉マークです!!

よーく見てみてください。これが、世界一の温泉マークです!!


遠藤さんのプロジェクトは、どれも一見、突拍子もないような内容に見えますが、その背景には、現代の人々や社会に対する深い洞察と一貫したテーマがあります。「ほふく前進」では人々の「絆」を、「未来龍」のプロジェクトでは、未来へ向かうエネルギーである「夢」を、いずれも誰もが見て、参加できる形で可視化しました。

自らのアプローチ手法について「特別なことは何もしていない。ほふく前進も凧上げも、行為としてはだれでもできること」と語る遠藤さん。今や、美術の表現手法や考え方は多種多様で、ネットの中だけで完結する表現や、あえて無気力な時代の風潮にフォーカスした表現も数多くあります。
ともすれば、「一生懸命さ」を見せることや「夢」について語ることが恥ずかしいことと思われがちな風潮がある日本の社会。そんな中で、遠藤さんの「未来芸術」のアプローチは、あえて今の時代に欠けている「ポジティブさ」を前面に押し出し、「未来へ」と「絆」というシンプルなテーマを、だれもがわかるフィジカルな手法で表現するものでした。

ネガティブな社会の空気に対して、一貫してポジティブなテーマで挑む。そんなドン・キホーテのような姿勢こそが、遠藤さんの「未来芸術」の「芸術」たるゆえんなのではないでしょうか? 次は、遠藤さん自身のプロジェクトをこの目で見てみたい!と感じたのでした。

みんなを巻き込む秘訣は、この笑顔なのかも?

みんなを巻き込む秘訣は、この笑顔なのかも?


遠藤一郎(えんどう・いちろう)

静岡県生まれ。車体に大きく「未来へ」と描かれ、各地で出会った人々がそのまわりに夢を書いていく『未来へ号』。で車上生活をしながら全国各地を走り、 「GO FOR FUTURE」のメッセージを発信し続ける。主な活動に各地アートイベントでの展示やパフォーマンス(「別府現代芸術フェスティバル2009混浴温 泉世界」わくわく混浴アパートメント、「TWISTand SHOUT Contemporary Art from Japan」BACC(バンコク)、「愛と平和と未来のために」水戸芸術館など)、デザイナー(多摩川カジュアル)、DJ。2009 年より凧あげプロジェクト『未来龍大空凧』開始。2010年より柏にてオープンスペースislandの発足に携わる

GO FOR FUTREブログ http://www.goforfuture.com/

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