BRUTUS 副編集長、鈴木芳雄 「フクヘン。」の仕事とは

フィールドを超え、国境を超える「フクヘン。」の仕事に迫る
いつも新鮮な切り口から、アートをはじめ、今最も「旬」なカルチャーを紹介している雑誌「BRUTUS」。テーマのキャッチーさ、テンポのよさ、ビジュアルのクールさによって、幅広い層から支持されている人気雑誌ですが、その面白さの秘密はどこにあるのでしょうか?
今回の特集は、なんと、「BRUTUS」の副編集長として、アートを中心に、さまざまな人気特集を世に送りだしている鈴木芳雄さんを、ロフトワークにお招きしました! 人気雑誌の副編集長という激務の中、自身のブログ「フクヘン。」では、日々、展覧会やアートイベントなど国内外のアートシーンの「今」について、とても興味深い内容をつづっています。
日本のカルチャーメディアの最先端を走り続ける、とってもパワフルな鈴木さんから、「BRUTUS」の人気企画が生まれる背景や、自身の編集という仕事に対する考え方などなど、たっぷりとお話していただきました。
アート以外も、いろいろやります

「BRUTUS」の編集部では副編集長が3人いて、1つの特集を、1人の副編集長と現場の担当者1~2人が作っています。だいたい、得意分野ごとに担当する特集のすみ分けできているような状態です。僕は美術関係の特集を主に担当しています。ただ、美術の特集だけをやっているのかといえばそうではなく、「YouTube」特集も作ったし、食の特集やワインの特集など、いろいろ担当しています。僕が担当しないのは、ファッションくらいでしょうか。
取材では海外へ行く機会が多いのですが、常に海外の情報を求めている読者のためというのはもちろんありますが、さらに、忙しい人の取材時間をゆっくり取材するには海外のほうがいい、ということもあります。たとえば、「脳科学者だったらこう言うね!」(2007年2月1日号)の特集では、脳科学者の茂木健一郎さんのインタビューを、アメリカ、ロシア、インドで行いました。茂木さんは、日本にいる時は講義やTV出演などでスケジュールが詰まっていて、なかなか時間がとれないんです。だから、学会で海外に行くタイミングを狙って、取材を申し込みます。
アトランタで学会があるときは、「1日だけ時間をください」とお願いして、ホテルにニューヨーク行きのチケットを送っておきました。そして、ニューヨークで待ち合わせ、一緒に郊外にあるDia(ディア)ビーコンという大きな美術館で取材をしたんです。ほかにも、茂木さんが学会でロシアのサンクトペテルブルクに行くといえば、ロシアのエルミタージュ美術館で撮影したり、コルカタ(カルカッタ)での学会もあったので、それにも行きました。海外の方が、じっくりと話ができていいんですね。
でもじつは、海外取材の帰り道に自分の行きたい美術館に立ち寄ったりということも、しばしばありますけれど(笑)。

BRUTUS 2007年 2/1号 特集「脳科学者ならこう言うね!」
フクヘン流、特集のつくりかた
明快、かつユニークな切り口

矢印の部分が、メモを書いたところ。「村上さん、あれから7年夢の仕事してますか?」
「すいすい理解(わか)る現代アート」(2008年2月15日号)という特集では、現代アートの初心者をターゲットに、ごくかんたんな質問形式の記事をつくりました。
クレス・オルデンバーグとロン・ミュエクの作品を見ながら、「大きくつくればアートなの?」とか、杉本博司さんの作品を見ながら、「空と海だけの写真がどうして1億円以上するの?」とか、「ウォーホルの作品って、印刷物(シルクスクリーン)にサインしただけじゃん?」とか(笑)。
これが、企画を考えたときのメモです(右図)。おもしろいアイデアは、移動中に思いついたりすることが多いですね。記事を質問形式にするというのは、ある取材で海外に行った帰りに、成田からのリムジンバスの中で考えました。ただ、このときは手元に紙がなかったので、成田で買った週刊文春の広告にメモしたんです。できるだけ白っぽい所に書くようにしてね。
日本美術をマンガで

BRUTUS 2002年 9/1号 特集「日本美術? 現代アート?」
「日本美術?現代アート?」(2002年9月1日発売号)での切り口は、「難しいと思われがちな日本美術も、現代美術やマンガと併せて見るとおもしろい」という切り口で、古い美術と現代美術とを並べて紹介しました。明治学院大学の山下裕二先生の監修です。表紙には、赤塚不二夫先生のキャラクターを登場させて、バカボンのパパと牧谿(南宋の画家)の「老子図」(どちらも鼻毛が目立つでしょ?)、レレレのおじさんと、日本画のモチーフとしてよく使われる寒山拾得の「拾得」(どちらも箒を手に持っています)を並べて見せました。ここでは室町時代の画家、雪村の絵を使っています。山下先生曰く、「赤塚不二夫は、バカボンのキャラクターをつくる前に、ぜったいこの絵を知っていた」というのですが (笑)。
また、ほかにも尾形光琳の「燕子花(かきつばた)図屏風」と、会田誠が女子高生を燕子花に見立てて描いた「群嬢図’97」を並べるなど、古典の日本美術作品と深いつながりのある現代作家の作品とを対比させたりしました。
マジックナンバー「5」
日本美術の特集「国宝って何?」(2007年9月15日発売号)の企画のきっかけとなったのは、当時開催が予定されていた、日本美術の2つの展覧会です。京都国立博物館で狩野永徳の大きな展覧会があって、一方、サントリー美術館では「現存する鳥獣戯画を一同にぜんぶ集めよう」という野心的な展覧会がありました。それで「日本美術の特集をやろう」と思ったんです。時代もコンセプトも違う2つの展覧会ですが、両者の共通点は絵画、そして共に国宝なので、「国宝の特集にしよう!」と。
この特集の中で考えたのが、「国宝について、テーマ毎に5個ずつ覚える」ということ。人は、6つ以上だと、ぜんぶ覚えきれないけど、5つまでなら覚えられるんじゃないかなって。「5」というのはマジックナンバーなんですね。たとえば、国宝の絵画。「絵師」というくくりでは、雪舟、等伯、永徳、宗達、光琳の5人。「絵巻」というテーマでは、鳥獣戯画、源氏物語絵巻、伴大納言絵巻、信貴山縁起、地獄草紙の5点。この特集で紹介したテーマ毎の5つのキーワードを覚えたら、すごく絵に詳しい人や美術の先生も唸るというか、きっと「OK!」と言ってくれると思いますよ。

アイデアは手を動かして形にする

6曲観音のノンブル
国宝特集のとき、狩野永徳の「四季花鳥図襖」の迫力をなんとかして誌面で伝えられないかと作ったのが、6曲観音開きのページです。Webなどでよく見る 360度パノラマの写真からヒントを得て、これをやってみようと。そこで、いろいろ自分の手で紙を折ってできたのが、変則的な折りのページです。それで、印刷所と製本所の人に「こういうのできますかね?」とお願いしてみたところ、「持ち帰って考えていいですか?」といわれました。翌日、「できます。やりましょう」という返事をいただいて、6曲観音開きの誌面が実現したんです。これは、印刷所の人からは「鈴木折り」と呼ばれているそうです(笑)。自分の発明ではなく、以前にどこかの雑誌で見たことがあるような気はするんですけどね・・・。
その翌年、琳派の特集のとき(2008年10月15日号 特集「琳派って誰?」)、今度はインデックスタブのついた「折」製本を考案しました。俵屋宗達、尾形光琳、酒井抱一の3人が、風神雷神図を描いているので、それぞれの名前のついたタブを使うことで、こう・・・めくって、素早くその3点を見比べたいなと思って。まあ、それだけのことですけど(笑)、ちなみにこちらは「鈴木折りII」と呼ばれました。


「編集」にとって大切なこと
すべての仕事は編集である

「司馬遼太郎記念館」内、高さ11mの大書架
編集にはいろいろな手法がありますが、その中の1つ、「分解と再構築」について話しておきます。
すべての仕事は「編集」であるという考え方があります。たとえば、建築も編集です。安藤忠雄さんが創った「司馬遼太郎記念館」を例にしましょう。当初、司馬さんの図書館みたいな書庫には膨大な資料が保管されていました。この資料をどうやって展示として見せようか、ということになったとき、安藤さんは「司馬遼太郎の書庫の展開図みたいな感じにしよう」と考えたそうです。つまり、司馬遼太郎の書庫を一度分解して、二次元的に再構築する、というコンセプトです。そうしてできたのが、資料が一望に見渡せるような大書架。非常に素晴らしいですね。
そしてもうひとつ、料理も編集です。スペインのバルセロナ郊外に、世界中のシェフやレストラン好きが注目してる「エルブリ」というレストランがあります。その店では、赤いトマトを使って、白いムースをつくっている。これは、トマトの透明な果汁を使うわけです。赤くないけれど、トマトの味がする。そして、ソースで赤を使うことで、皿の上で独創的なトマトの料理を再構築したのです。ここにも分解と再構築のプロセスがあります。
このように、クリエイティブな仕事には、必ず「分解と再構築」という編集の作業が伴うのだと思います。分解することで、編集に一歩近づくんです。
人脈をつくるには

よく、「どうやって人脈をつくりますか?」と聞かれることがあります。でも、人脈というのは、つくろうと思って簡単にできるものではありません。現代の名編集者の1人である幻冬舎の見城徹さんが、「名刺を交換したり、パーティで会ったりして、あの人と知り合ったといってるけど、そんなのは意味がない」というようなことを書いていますが、そのとおりだと思います。
結局は、自分の仕事によってでしか、人脈を築くことはできません。かつて、映画評論家の淀川長治さんは、チャップリンと初めて会ったとき、彼の出演した映画のタイトルを、最初の作品から最新作まで一気に話したといいます。これを聞いて、チャップリンは「こんなに自分のことをわかってくれてるとは」と思ったのでしょう。2人は意気投合し、それ以来親友になったそうです。
僕らの仕事では、取材の依頼状で、相手が「まさにここを評価してほしい」と思っている個所をわかっているという片鱗だけでも見せられれば、相手は「会ってみよう」という気になってくれます。で、最終的に、できあがった記事を通じて「わかっている」というシグナルを送ることができれば、そこから先、あなたからの仕事は断らないという特別待遇を与えられる。ここまで持ち込んで、やっと「人脈」になるわけです。人脈を作りたいなら、相手から「こいつはちゃんとわかっている」と思われることを目指してほしいですね。
トラブルを歓迎する
最後に、編集者の心得をひとつ。開高健さんの「編集者マグナカルタ」に、このような文章があります。
読め。
耳をたてろ。
眼をひらいたまま眠れ。
右足で一歩一歩歩きつつ、左足で跳べ。
トラブルを歓迎しろ。
遊べ。
飲め。
抱け、抱かれろ。
森羅万象に多情多恨たれ。
捕遺一つ。女に泣かされろ。
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きっと、この心得は、編集者だけに限らず、クリエイティブな仕事をしている人すべてに通じることだと思っています。この中で僕が好きなのは、「トラブルを歓迎しろ」という言葉。これは、編集者として勇気づけられる言葉ですね。仕事をやってると、トラブルはつきものです。でもそのトラブルをトラブルのままにせず、いかにして「転んでもただじゃ起きない」ようにできるか? 「災い転じて福となす」ことができるか? そこが大事だと思います。
え、「女に泣かされろ」はどうかって? これはどうでしょうか、皆さん、考えてください(笑)。
鈴木さん、かっこよすぎです! ~結びにかえて~
今回、あの「BRUTUS」の、しかも美術特集を担当してる鈴木さんにお会いできる! ということで、ロフトワーク一同、期待と緊張が入り混じった中で、お話を聴かせていただきました。
鈴木さんの、プロフェッショナルとしての意識の高さと、確実な仕事によって築いてきた人脈。そして、印刷屋さん泣かせの型破りな発想力、あくなき好奇心、世界を飛び回るフットワークの軽さ。51歳にして最先端をいく、その勢いこそが、鈴木さんの手がける特集の面白さの秘密なのではないでしょうか。
また、編集者として非常に高いキャリアを持った方(雲の上のような存在!)なのですが、それ以上に、アートや仕事の話をするときの生き生きとした表情や軽妙な語り口が素敵すぎて、本当に愛すべき人、という印象でした。
「今のWebをみていると、逆に紙メディアだからこそできることが、まだいろいろあるような気がするんだよね」と、語ってくださった鈴木さん。これからも第一線で面白い雑誌を作りつづけていただきたいのと、「鈴木イズム」を継承する雑誌編集者をどんどん輩出していただきたいと思います!
わたしたちも、鈴木さんに「近頃の若いもんは元気がない!」と言われないよう、がんばります。
鈴木さん、ありがとうございました!!
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